脅威度と、TRPGのハンデキャップ制度【D&D3.5e】

D&D3.5eの脅威度(CR)は、同じ値のPC4人が20%の損害を出す程度として設定されています。
この感覚が最近会ったマスター達と私自身とで微妙に異なる気がするので今日はその話*1

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【例示】
例えば「PCを室内で水攻めにした上で、ゴーストに襲わせる」とします。


この場合、水の中ではPCの行動は大きく制限される上に、時間制限(窒息)や視覚制限(濁った水)もつきます。
勿論、ゴーストには無縁なので十全に能力を発揮できますので、大変不利な状況です。


また、普通のマスターであれば(少なくとも私なら)、水に落とす前に幾らかのヒント(部屋が所々カビてる。水の臭いがするなど)、罠のある部屋に招き入れる仕掛け(壁に聖印と短い文章が書かれてるが、入り口からは良く見えない、とか)を用意するでしょう。


すると、PCの行動は大まかにこうなります。


1.ヒントから的確に展開を予測し、事前に用意してあった or その場で思いついた対抗策を実施する。
2.ヒントには気づかなかったが、事前に用意してあった or その場で思いついた対抗策を実施する。
3.ヒントに気づかず、状況になす術が無いので運頼みで頑張る。


1の場合、PCはゴーストを五分の条件で迎撃できるので20%程度の被害で迎撃できるでしょう。 
具体的には水中呼吸の呪文を事前に用意しておいたり、部屋に入らずに文字を読んだりする場合です。


2の場合、PCはゴーストをある程度の不利な状況で迎撃し、40%程度の被害を出すかも知れません。
水中呼吸の薬を用意しているとか、空間転移で脱出するなどです。


3の場合、PCは全滅するかも知れません。
水中対策が何もなく、撤退用の準備もなく、ペナルティをものすごく受けながら殴りあう場合です。


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この場合、どんなマスタリングが適切なのか?


私は『3のような展開になってしまうPL達相手であれば、この展開は不適切な脅威度なのだろう』と思います。
全滅する可能性が高い脅威度は基準+5ですから、例えて言えばこの展開は1LvPTにCR6の敵をぶつけた様な物です*2
20%の損傷が出るはずの敵で100%の損傷が出てしまうのなら、数学的に考えればマスターがやりすぎてるのでしょう*3


この話は幾らでも応用が効きます。


脅威度が遥かに高く普通にやっては全然勝てないような敵を出しても、敵に隙がありPCが適切な行動を取るのであれば倒せるなら、
それは脅威度が大きく下がりますので、数学的には問題ない筈です*4


敵の脅威度が低くても特殊能力や魔法を慎重に選べばもの凄い威力でPCを一掃する事ができますが、その場合は脅威度を上げるべきでしょう*5

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また、同時に問題となるのは、PL達のレベル、PL達の腕です。
当然ですが、PLの腕によって相対的に敵との戦力差が決定します*6


良く訓練されたPLであれば、上記の例題の場合も当然のように1の行動を取るでしょう。
もし、たまたま気を抜いていたとしても2の行動は取れるはずです。


ただ、それをあらゆるPLに要求するのは正当とは言えないでしょう。


それに加えて、、PLの腕とは(直接は)無関係に、好みの問題もあります。


PLの腕が良い場合に、マスターが厳しい(脅威度が上昇するような)展開をぶつけるのであれば、歯ごたえがあって面白いかも知れません。
また、PLが慣れてなくても「次は負けないぞ」と闘志を奮い立たせて楽しんでいける可能性もあります。
ですが、「そこまでガチな(やりこんでいる)プレイヤーじゃないんで、要望がきつすぎる」と楽しめない可能性もあります。
PLの腕が良い場合に、マスターが捻らず普通の敵をぶつけるだけなら「物足りない」と思うかも知れません。
PLが慣れてない場合には、丁度良いバランスになって面白いかも知れません。


このように、誰がどんな状況をどうやって楽しむのかは明確には予測する事も定義も出来ません。
でも、事前にPLの腕と、好みの方向性を考慮すると言うのは可能ですし、重要な事です。 
何せ、敵との戦力差に直結しますからね。
いつだって、マスターはデータ以上にプレイヤーに注目するべきでしょう。


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【まとめ】


マスターはデータの正しさ、ルールの正しさ、訓練の過多に甘えるべきではないと思います*7
必要なのは"目前のPLにとっての脅威度を数学的に把握する事”です*8


つまりは、敵をデータ数値だけでみるのは意味が無い、という事でもあります。
脅威度の高すぎる敵をぶつける事も、脅威度の低い敵を工夫に工夫を重ねてぶつける事も別に優劣は無いのでしょう。


特に、マスターは"ルールを適切に運用し、脅威度の低い敵を巧みに操ってPCを翻弄する"事について疑問を持たない傾向があります。
私もあまり他人の事は言えず「この組み合わせをしたモンスターは、普通よりずっと強いぞ」と思うと、実際のセッションで試してみたくなります。
または、適切に運用すれば強い敵を、凡ミスで何の苦もなく倒される事もあります。


でもこれらはデザイナーの意図するゲームバランスを考慮するのであれば良くない状態であり、より数学的に状況を把握し、適切なバランス*9を維持する必要があるでしょう。


何故なら、適切な脅威度、デザイナーが意図するゲームバランスを維持する事が、長期視点による経験値配分のバランスと、基本スペックのバランス的に優れているからです。
少なすぎる経験値も多すぎる経験値もプレイに良い影響を与えない為であり、PCと敵の攻撃力や防御力、その他の能力が偏らないようにする為です。
自分がゲームデザイナーより優れたバランス感覚を持っていると確信できない間は、デザイナーが推奨するバランスを守る方が安全性が高いでしょう*10


このようなバランスの維持には、PLとの相互理解が不可欠です。
基本中の基本ですが、良いマスタリングは、そこから始まるんじゃ無いかな。


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ここから馬鹿話。


私は初めてご一緒するPLさんには、セッション開始前にそのセッションの難易度告げます。
もしくは、PLさん達に「どの程度の厳しさが良いですか?」と尋ねるようにしています。


ですが、いっその事ゴルフのハンデキャップ制度の様にもっと具体的な数値で聞くのも手かも知れません。
「今回は、脅威度+4くらいでも平気ですか?」
「今回は初心者の方もいるので、脅威度+/-0ね」
そして勿論、状況による脅威度の上昇を、この申告された数字に合わせてバランスを取る訳です。


これが続けば「だいぶルールに慣れたので、脅威度+1に挑戦してみます」とか「魔法使いを始めて遊ぶので、脅威度1点下げて欲しい」などと調整する事

も可能になるでしょう。


更に、これが発展すると、マスター間の壁すらこれで乗り越えられるかも知れません。
勿論、状況による脅威度の評価はマスター個人によるのでマスター間の互換は難しいのですが目安にはなるでしょう。


例えば、プレイヤーが自己紹介するときに「私は、OXマスターの所で、脅威度+1で遊んでます」とか言ってもらえれば、「なるほど。OXマスターは厳しいから、私の所では脅威度+3でいけるかな」とか「では、とりあえず脅威度+2で遊んでみましょう」とかいえるかも知れません。


いつかその内、ガチプレイヤー大目の有志団体が、ルールの理解度や注意力、観察力などのハンデキャップ認定をしてくれるようになると、TRPGのゲーム制は増して楽しいな。
これは勿論、ロールプレイの優劣などに悪影響を与える物でもないしね。


#念のため繰り返しますが、今回の話でのPLの腕の良し悪しはTRPGのある一面に過ぎません。
#PLの総合的な良し悪しを論じている訳ではないので、ご注意下さい。

*1:もっとぶっちゃけると、友人マスターがルールブック的適正脅威度を遥かにぶっちぎった敵を出すセッションを行い、参加した私は個人的には大変楽しんだのですが「バランス的にどうよ?」という話が友人自身や周囲からチラホラ聞こえてきたりするのでそれに対する意見として

*2:勿論、脅威度+5の敵をぶつけていると承知の上でマスタリングしているなら問題ありませんが

*3:ただし、やりすぎ状態が楽しいセッションもあります。それについては後述

*4:ちなみに、その場合は大きく修得経験値も下がるべきだと思いますが如何か?

*5:例えば、魔法使いPCを不意打ち&魔法や飛び道具で集中攻撃するとかね

*6:この場合、PLに要求される腕というのは、観察力、推理力、決断力、およびルールの把握能力などでしょう。(最近Webで話題の上級者がどうした、とかいう問題とは直結する訳ではありません

*7:ルール的に正しい、常識的に正しいからと言ってPLが対処できない敵を出す事は正当化されない、とも言う。ちなみに楽しければ正当化されます

*8:いわゆる、空気読め、という要望の一面でもあります。D&Dのルールブックにも状況によって脅威度の数字は適切で無いとかかれていますしね

*9:ここでの適切なバランスは、PTLvに等しい脅威度の敵と対峙した場合、20%リソース消費で倒せる敵、という意味

*10:勿論、個々の卓で"展開厳し目、経験値少な目で行こう"と合意が取れてるなら話は別です。まぁ、良く話し合え、と