TRPGの顔

TRPGの構成要素の中で大きな割合を占める要素にイラストがある。
イラストというのは、つまりは見た目でこの重要性は説明する必要も無いと思う。
『性格が良くて普通の子』と『性格が悪くて可愛い子』なら前者の方が好かれる可能性はあるが、
どちらも『性格が良くて可愛い子』には敵わない。
この法則はTRPGも一緒で「イラストはどうでもいいよ」などと言われる場合はあるが、
やっぱり優れたイラストがシェアを拡大する要素であるのは事実である。


では、どんなイラストがいいのか。
とりあえず、イラストの中でも一番影響力の大きい表紙を中心に考えてみる。


私が比較的最近買ったルールで考えると、例えばビーストバインドNTの場合は、いわゆるアニメ風で
半裸の女の子と少しのダークっぽさが見られる。
アリアンロッドの場合もアニメ風ではあるが、デフォルメされており全体的に明るい雰囲気。
ガンドックはミリタリー風ですが、リアル重視より格好良さ指向な気がする。
迷宮キングダムはアニメとは違う少し童話チックな雰囲気があるし、逆に(突然話が古くなるが)、
ソードワールドガープスなんかは紋章などで人物は描かれていない。


イラストがTRPGの有力な要素である以上、このイラストには何らかの設計思想が反映されている筈だ。
ビーストバインドNTははっきりしていて「性と暴力。しかもアニメ風」とくれば中学生から高校生以降
くらいの少年、青年を狙っていると思われる。
コミックやアニメにある「闇の中で繰り広げられる超人達のドラマチックな闘争」な世界の再現を狙った
ルールとは良く組み合わさって狙い通りの格好良さを演出している。
(ちなみにアーキータイプ毎のお笑いネタ漫画は、ルールにプラスに働いてないと思うのだが)


アリアンロッドも狙いは中学生から高校生以降くらいだろうが、性を排除し明るくする事で男性のみならず
女性にも手に取りやすい間口の広さを狙っているのだろうし、それは成功してると思う。
その代わり、大学生以降の男性には子供っぽいと言われているかも知れないが、その世代に対するイラストの
効力と中高性世代の女性に対する効力を考えるとどっちが有効性かは明らかだろう。
また、ガンドックも明確だ。 ミリタリー好きは手に取るし、そうでない人間は振り向かない。
ガンシューティング物はTRPG世界でも(あるいは娯楽世界全体でも)ファンタジー物や伝奇物(でいいのかな)に
比べれば元々狭い世界なので、その世界の人を取り込めれば良いのかも知れない。
窓口を広げる効果は疑問だが、該当するファンはきっちり惹きつけられるだろう。
迷宮キングダムもイラストも雰囲気を良く表している。
アニメ風な萌え展開は無いが勿論リアル指向のハードな世界でもなく(世界は厳しいが)コミカルで陽気な
雰囲気があり、ルールの方向性を良く示している。
ただ、ルールは非常に戦略的なのでそれが好みの人にも向いてるがイラストからはそれは読み取れないだろう。
これは、まぁ、ルール自体もそうなので仕方が無い。


ソードワールドガープスがイラストに力を入れてない様に見えるのは、逆にイラストによるルールの
方向付けを嫌ったのだと思う。
特にソードワールドの発売当時はTRPG業界も誕生まもなく、ライバルはおろか業界自体が成立するか
否かという状況だった為、下手にイラストで人を惹きつけてしまうとその後の方向性に大きな偏りが
発生する恐れがあったのだろうと考える。
結局、その後ソードワールドはルール自体の魅力で業界を一新したのだからやはり優れたシステムだった。
もしSWが全部、出淵裕さんのイラストだったらTRPG世界は結構変わっただろうな。


で、こうやって分析していると意図がわからんルールも当然ある。
ゲヘナはアラビアンファンタジーTRPGなのだが、イラストはアニメ風でもなくデフォルメされている訳でもなく、
かといって格好良さ狙いという訳でもなく、どことなくあか抜けない教科書の挿絵のような味気なさがある、
アラビア風を前に出したければリアル指向、ヒロイックファンタジーならもう少し格好良さか萌え風をいれる。
どちらか狙いの方が現在のどっちつかずよりマシなのでは無いだろうか。


もう古い話になるがシャドウランはアメコミ風、海外サイバーパンク風の表紙だった。
翻訳ルールが元と同じイラストを使うのは良くあるが、表紙にまで使う意味はあったのだろうか。
狙いがサイバーパンクファン狙いだけならそれでも良いだろうが、シャドウランの第6世界は魔法や
神秘もあるもっと広い世界だったのだし、ここはD&D3.0を見習って表紙に人物は省いた方が、表紙だけで
手を引く人を減らし窓口を広げる働きがあったのではないかと思う。
ちなみに、その後SNEの出したソースブックはアニメ風イラストに変えてみたようだが、元々色気が無い分
中学生から高校生以降には魅力が低く、サイバーパンクのような雰囲気を好む大学生以降には忌避感を抱かせた
墓穴を掘りまくりな展開だったと思う。


ルールとイラストの整合性はそのTRPGのポリシーがどこまで徹底して反映されているかの指針になる。
それを自覚した上で、よりよいイラストとルールのバランスを考えて欲しい物だ。
それがTRPGをもっと楽しくしてくれるだろう